原虫 Protozoa

原虫は単細胞の寄生虫であり、その単細胞に生命の営みに必要な機能がすべて備わっている。原虫類は一般に、根足虫類・鞭毛虫類・胞子虫類・有毛虫類の4グループに分類されている。例として、赤痢アメーバ(根足虫類)、腟トリコモナス(鞭毛虫類)、マラリア原虫(胞子虫類)などがある。

赤痢アメーバ Entamoeba histolytica

赤痢アメーバは、大腸に壺型の潰瘍を形成し、アメーバ性赤痢の原因となる。感染経路は、fecal-oral infectionが主であるため、性行為感染症(STD)の1つとして分類されている。最近、非病原株であるE. disparが独立種として考えられており、診断の上で重要である。写真左に栄養型は微分干渉を、シストはコーン染色を示す。

大腸アメーバ E.coli  (Entoamoeba coli)

大腸アメーバは、E. histolyticaと同様に大腸に寄生するが、組織侵入性はなく、従って病原性はない。E. histolyticaとの鑑別は、大きさ・成熟嚢子の核数・カリオソームの位置および類染色質体の形で行う。写真は、シストを示す。

アカントアメーバ  Acanthamoeba sp.

アカントアメーバは本来自由生活性であるが、まれにヒトに感染することがある。この場合、必ず現れるわけではなく、ヒトの抵抗力が弱っている時に病原性を示す。最近はコンタクトレンズ装着者に多く発症することが分かってきた。つまり、レンズおよび保存液の消毒が不適切であると本原虫の感染の危険性が高くなる。
写真はシストの状態と寒天培地上に認められた栄養型とその這痕を示す(位相差顕微鏡;いずれも松尾先生より恵与)。

ブラストシスチス Blastocystis hominis

ブラストシスチスは、従来酵母の一種と考えられてきたが、最近は原虫の一種と考えられるようになった。また、下痢の原因と考えられている。  写真は、栄養型を示す。左上部に分裂中の虫体が見られる。

ランブル鞭毛虫 Giardia intestinalis

ランブル鞭毛虫は、G. lambliaあるいはG. duodenalisともいわれるが、日本寄生虫学会用語委員会に従った。栄養型はヒトの十二指腸、空腸上部に寄生し、主に下痢を引き起こす。特に、熱帯地域への旅行時の感染が増加している。  写真は栄養型(ギムザ染色)、シストの微分干渉像(木村博士より恵与)を示す。

腟トリコモナス Trichomonas vaginalis

腟トリコモナスは、女性の腟に寄生し、腟炎を引き起こす。また、男性の尿道や前立腺にも寄生し、STDの原因となる。T. vaginaliは、他の原虫と異なり、シストの時期はない。写真は栄養型と走査型電子顕微鏡像を示す。

トリパノソーマ Trypanosoma spp.

トリパノソーマには、アフリカ睡眠病を引き起こすT. brucei gambiense、T. b. rhodesiense、シャーガス病を引き起こすT. cruzi が特に重要である。前者はアフリカに、後者は南米に多く見られ、それぞれツェツェバエサシガメによって経皮感染する。  写真はクルーズトリパノソーマの錐鞭毛期、血液中(ギムザ染色)のガンビアトリパノソーマを示す。

リーシュマニア  Leishmania sp.

リーシュマニアは、カラ・アザール(内臓リーシュマニア症)および皮膚リーシュマニア症の病原体である。感染は、サシチョウバエによる経皮感染によってなされる。写真は、前鞭毛期(ギムザ染色、微分干渉像)を示す。

マラリア原虫  Plasmodium spp.

マラリアは広く熱帯・亜熱帯に分布し、毎年約3億人が感染し、150-250万人以上が死亡している。ヒトに寄生するマラリア原虫には、P. falciparum(熱帯熱マラリア原虫), P. vivax(三日熱マラリア原虫), P. malariae(四日熱マラリア原虫), P. ovale(卵形マラリア原虫)の4種類があるが、P. falciparumが最も悪性である。感染はハマダラカの吸血の際に起こり、貧血・発熱・脾腫が主な症状となる。

・ 熱帯熱マラリア原虫P. falciparum

 写真はP. falciparumの輪状体と生殖母体を示す。

・ 三日熱マラリア原虫 P. vivax

 写真はP. vivaxの輪状体を示す 。

・ 四日熱マラリア原虫 P. malariae

 写真はP. malariaeのアメーバ体(帯状体)を示す 。

・ 卵形マラリア原虫 P. ovale

 写真はP. ovaleのアメーバ体を示す 。

バベシア Babesia spp.

バベシアは、従来野生動物のみに寄生すると考えられてきたが、最近欧米で人体寄生例が見られ、日本においても1999年に発見された。過去に人体寄生した種は、B. bovis (欧州),B. microtia (米国,日本)である。写真は、赤血球内に寄生しているバベシア原虫を示す(ギムザ染色)。

トキソプラズマ Toxoplasma gondii

トキソプラズマはネコ科の動物を終宿主とする原虫で、ヒトへの感染はシストおよび卵嚢子(オーシスト)の経口摂取によって起こる。妊婦が初感染を受けると、胎児に先天性トキソプラズマ症を引き起こす。また最近、AIDS患者などの免疫不全者の日和見感染症の原因原虫として注目されている。写真はオーシストを示す。また下段には脳で形成されたシストを示す(H-E染色、微分干渉像、位相差像)。

クリプトスポリジウム Cryptosporidium parvum

クリプトスポリジウムは、オーシストの経口摂取によって下痢を引き起こす。C. parvumのオーシストは、塩素消毒に抵抗性を示すため、水系集団感染症を発生させることがある。またAIDS患者などの免疫不全者に日和見感染症を引き起こす。  写真は糞便中に見いだされたオーシスト(位相差)を示す。下段では、オーシストの染色像(抗酸菌染色)と微分干渉像を示す。

サイクロスポーラ Cyclospora sp.

サイクロスポーラは、新興感染症の1つで下痢を引き起こす原因原虫である。オーシストはU励起で蛍光を発する。
 写真は、成熟オーシスト(中に、2つのスポロシストが見える)の微分干渉像を示す。

イソスポーラ Isospora sp.

イソスポーラに感染するとサイクロスポーラと同様に下痢を呈する。オーシストは特有の形を有し、UV下で自家蛍光を発する。写真はオーシストとその蛍光顕微鏡を示す(いずれも木村博士より恵与)。

ヒト肉胞子虫  Sarcocystis hominis

ヒト肉胞子虫は不完全調理の牛肉(成熟シスト形成)などを摂取することによって感染する。病原性は弱く、症状はほとんど認められない。サイクロスポーラおよびイソスポーラと同様にUV下で自家蛍光を発する。診断は糞便中にスポロシストの検出による。写真は成熟スポロシストの微分干渉像と蛍光顕微鏡を示す(いずれも木村博士より恵与)。

カリニ原虫  Pneumocystis carinii

カリニ原虫は、原虫かあるいは真菌かの分類学上の位置ははっきりしていない。症状は、AIDS患者などの免疫不全者にカリニ肺炎を引き起こす。
 写真左にシストのTBO染色像を、右にギムザ染色像を示す。
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