衛生動物 Medically important arthropods

衛生動物は、人体の体表に寄生(外部寄生)したり、伝染病を媒介(寄生虫・ウイルスなど)したり、またはその体内に保有する毒物によって人体に直接病害・危害を加えたりする動物が含まれる。ここでは、蛛形網昆虫網を紹介する。 

蛛形網 Arachnida

蛛形網に属するものは、頭胸部と腹部に分かれ、4対の脚(各脚は6節からなる)と羽はない。その中で、ダニ(Acarina)は4対の脚を持ち、昆虫ではなくクモ類と同じ網に属する。世界で5万種、国内で1千種が知られ、多数の食品に繁殖加害し食品衛生的問題、ダニがアレルゲンとなって引き起こされる喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患、またある種は動物に寄生し吸血することによる皮膚炎やウィルスや細菌等を伝播するなどの様々な問題から医学上非常に重要である。以下に紹介する。

コナヒョウヒダニ Dermatophagoides farinae

次のヤケヒョウヒダニと並び室内塵に最も普遍的に存在するダニの一つである。これらはhouse dust miteと呼ばれ、2種で国内の室内塵中に住む全ダニの約80%を占める。体長0.3-0.4mmで体は淡褐色である。メスの第3脚は第4脚より長く、オスの肛枝はやや細長いレモン状を呈している。
写真左にメスを、右にオスを示す。 

※写真は上原博士のご厚意によるものです。

ヤケヒョウヒダニ Dermatophagoides pteronyssinus

体長 0.2-0.4mm、体は淡褐色で卵形を呈している。オスはメスよりやや小形で、メスの第3脚は第4脚よりやや長く、オスの肛板は幅広い洋なし形を呈している。写真はメスを示す。

※写真は上原博士のご厚意によるものです。

ケナガコナダニ Tyrophagus putrescentiae

体長0.3-0.4mm、乳白色で表皮は柔らかく前体部と後体部の境界には溝がある。後体部の後縁毛は7 対あり、そのうち6対は体長と同じくらい長い。オスの第4 脚ふ節に2個の吸盤および肛門の後に1対の吸盤を持つ。写真はメスを示す。

※写真は上原博士のご厚意によるものです。

クワガタツメダニ Cheyletus malaccensis

ツメダニ類は非常に大きな触肢を持ち、その末端から大きなツメが出ているのが特徴であり、夜間就寝中にはい出してきてヒトを刺す。刺された瞬間は腫れも痒みもないが、1-2日たつと皮疹ができる(遅延性のアレルギー性皮膚炎)。写真はクワガタツメダニを示し、体長は0.5-1.0mm、淡黄橙色で目はない。触肢のツメは太く、基部内側に1個のこぶ状の飾爪を持つ。

※写真は上原博士のご厚意によるものです。

ツツガムシ Leptotrombidium sp.

ツツガムシの成虫は土中で生活し、幼虫だけがヒトやネズミに寄生・吸血し、病原体(リケッチア)を媒介する。症状としては、特有の刺し口、発熱、発疹、リンパ節の腫脹などである。「つつがなく暮らす」というのはこの病気にかからずに暮らすということである。写真は幼虫を示す。

ダニの幼虫 tick larva

ダニは世界で約5万種、日本で約1,000種が知られているが、未知の種類が極めて多い。これらは自然界で自由生活をしており、あるものは動物に寄生・吸血する。ダニの成虫は4対の脚を有するが、ダニの幼虫の脚は3対である。写真にネズミから採取した幼虫を示す。

ヒゼンダニ(疥癬虫) Sarcoptes scabiei

ヒゼンダニは疥癬の原因となるダニで、ヒトの皮膚に寄生する。感染はヒトとの接触によって起こり、ヒゼンダニが寄生すると、赤色の丘疹を生じ、非常に痒くなる。
 写真に皮膚に寄生したヒゼンダニを示す。

昆虫網 Insecta

昆虫は、例外を除き一般的に体が頭・胸・腹部の3つに分かれ、3対の脚と2対の羽を持つ。その中でシラミ (Anoplura)は、吸血性のシラミ目(Anoplura)と動物の羽や肌を侵すハジラミ目(Mallophaga)とがある。本項で取り扱うシラミ目は、吸血性昆虫の中で、寄生特異性が最も強く、幼虫・成虫・雌雄共に吸血する。ヒトに関連するものは、アタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミの3つがある。以下に紹介する。

アタマジラミ Pediculus humanus sp.

アタマジラミは髪の毛に寄生・吸血し、体長2~4mm、頭・胸・腹部からなり、頭部に吸血を行う口器と一対の目と触角を持つ。コロモジラミはアタマジラミによく似るがやや大きく、肌着に寄生し、吸血する。写真はネズミから採取したシラミを示す。

ケジラミ Phthirus pubis sp.

ケジラミはヒトの陰毛部に寄生し、吸血する。ほとんどが性交時に感染するため性感染症の一つと考えられている。体長1~1.5mmで、三対の脚を持ち、前脚が細く、中・後脚が著しく強大なのが特徴である。  写真は成虫、陰毛に産み付けられた虫卵を示す。

ノミ flea

ノミは縦に平たく脚がよく発達しており、高さで33cm、体長の約200倍もの跳躍力を持つ。ヒトをはじめ各種の哺乳類や鳥類の肌から吸血し、ぺスト菌を媒介する。感染症新法では1類感染症に指定されている。  写真はネズミから採取したノミを示す。

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